米国の投資ファンドのARK Investmentはウォール街のアナリストがまだ注目していなかったTeslaや多くのテック企業に早くから投資して一躍有名になった投資ファンドです。 少し前に調査方法がユニークだとして注目されるようになりました。
平たく言うと、ARKはテクノロジー企業の分析をめちゃくちゃ頑張って業界に詳しくなり、「破壊的イノベーション」を起こし、とてつもなく成長しそうな企業を発掘するのに長けているといった感じでしょうか。
ちなみに、どのファンドもパフォーマンスはいい時も、悪い時もあり、またどの時間軸で評価するかによりますので、同社が運営するファンドの良し悪しは各自それぞれ評価してもらえればと思います。
同社を率いるキャシー・ウッド氏は日本のメディアにも度々出演しているので、こちらの動画を見るとなんとなくどんな投資調査をしているかイメージできるかと思います。参考までに動画のリンクを貼っておきます。
キャシー・ウッドの投資 徹底的な調査がすごい(Pivot)
今から成長する業界とは!?「キャシー・ウッド氏の投資手法」がすごすぎる(マネックスオンデマンド)
Ark Investmnetの投資プロセス
動画でざっくり理解できるかと思いますが、同社の公式HPに投資プロセスに関する資料がありますので順を追って見ていきたいと思います。
投資哲学 (Investment Philosophy)はどんなもんか?
資料の一番最初に投資哲学が書いてあります。「投資哲学」なんて崇高でかっこいいですね。
同社は基本的に「長期投資の機会」を対象としており、ディスラプティブなイノベーションを起こし、そこから恩恵を得る企業を探しています。
「ディスラプティブ」とはテック業界でよく出てくるキーワードで、既存の業界をテクノロジーでガラッと変える、つまりぶっ壊す程のインパクトを与えるという意味です。
一昔前だとデジカメが既存のカメラ業界に食い込んだり、ネット広告がテレビや雑誌広告に影響を与えたように、多くの業界でこのような事が起こっています。テスラのEV車も既存の自動車産業に一泡吹かせている状況をイメージすると分かりやすいかと思います。
ARKが定義する「ディスラプティブ」であるための3つの条件はこちらです。
大幅なコスト低下を実現し、新たな需要の波を生み出す
業界や国境を越えて影響を及ぼす
そこからさらにイノベーションが生まれる基盤となる
(筆者作成:まとめ画像)
Ark Investmentは、真の技術革新によって製品やサービスのコストを大幅に削減し、多くの分野、業界、国に影響を与えると考えています。さらに、長期的にはその技術が新たなイノベーションを生み出す可能性を秘めているとしています。
また、多くの投資会社は「今の利益」や「短期間の株価変動」に注目しがちですが、ARKは「この技術は5年後、10年後に世界をどう変えるか?」を考えて分析しているようです。
テクノロジーが今後の社会に与える影響をふんわりと考えるのは楽しいものですが、投資会社として論理的に分析し、それが企業の株価にどのように反映されるのか、さらにはARKが運用するファンドのパフォーマンスにどのような影響を及ぼすのかを試算するには、大変な作業が必要だと容易に想像できます。
継続的に繰り返し行われる投資判断のプロセス
では、どのように調査して投資判断をしているのでしょうか?
投資プロセスは、以下の図のようにトップダウンとボトムアップのリサーチを組み合わせているようです。
(図:ARK Investmentより)
トップダウン型のリサーチで投資対象を選定し、成長の可能性を評価
ARKは、「オープン・リサーチ・エコシステム」というユニークな調査プロセスを構築しています。
通常、投資ファンドにはファイナンスのプロが多数在籍しており、それぞれの投資分野にめちゃくちゃ詳しい専門家が揃っています。
ただし、テクノロジーの最先端の動向や実務に関する知識を解像度高く理解するのは、そう簡単なことではありません。そこでARKは、外部の専門家と意見交換できる「オープン・リサーチ・エコシステム」という仕組みを構築しています。
この仕組みによって、ARKの投資ポートフォリオマネージャー、調査ディレクター、アナリストが外部の専門家と交流し、破壊的イノベーションがどの分野で起きそうかという理解を深めることができます。
また、ARKの調査チームは業界を横断したイノベーションテーマごとに編成されており、異なる技術分野の融合を活かした分析が特徴です。例えば、AI分野とロボティクス分野、エネルギー分野の技術の融合がテスラにどのように影響するかなどです。
その結果、ARKは技術の進化によるコスト低下や需要の変化をモデル化・予測し、数年にわたるバリューチェーンの変化や市場機会を定量的に分析することができます。
これにより、新たな投資機会を捉え、適切な投資のタイミングを見極めることができるのです。
ボトムアップ型のリサーチで投資機会の精査、企業の特定、ポートフォリオ管理
ARKの投資チームは、調査プロセスの一環として、トップダウンとボトムアップの両方の情報に基づいて、投資評価のドキュメントとバリュエーション評価モデルを作成します。
独自のスコアリングシステムを用いて株式を評価し、投資の根拠をモニタリングしていきます。
ここでのスコアリングとは個別の企業を評価するために様々な観点から点数化し、総合的に評価しています。スコアリングに関しては後述します。
調査により新たに発見された示唆、確信度の変化、企業スコアの調整については、週次の投資ミーティングで議論されます。そしてこれらがARKの投資ポートフォリオ運用に反映されていきます。
ARKの週次のスケジュールはどんなもんか?
ARKは、破壊的イノベーションの加速するスピードに対応するために、独自の投資プロセスを構築しています。また、複数の研究分野の情報の融合が、他にはない洞察を生み出すと考えています。
ARKの週間スケジュールでは、創造的なアイデア共有を行いながら、詳細なトップダウン・ボトムアップ分析や個別株の議論を組み合わせています。
ざっくりこんな感じのようです。
Stock Meeting:企業を選択しバリュエーション評価を行う
Individual Reserch Sessions:リサーチディレクターと調査アナリストによる議論
Reserch Meeting:トップダウンとボトムアップの観点からの調査
Brainstorming:週次でのアイディア創出とリサーチ結果の共有
(図:ARK Investmentより)
個人的な経験則とイメージですが、米国では驚くほどバックグラウンドが違う人々が一緒に働いているので、こういったフレームワーク化された作業プロセスをドキュメント化しプロフェッショナルに進めていく事はチームの力を最大限発揮するために、極めて重要な要素だと思います。
企業のHPに公開されているこういった情報は、実は社内ではあんまりちゃんと運用されていなかったり、注力していないケースが多いです。しかし同社率いるキャシー・ーウッド氏はインタビュー等の発言で似たような事を何度も言っているので、しっかり運用しているのではないかと推察しています。
企業の評価スコアリングプロセスはどんなもんか?
ARKのポートフォリオマネージャーは、リサーチチームと日々情報をアップデートしています。最終的な意思決定者は投資ポートフォリオマネージャーとなっているようです。
ARKの投資プロセスの一環として、独自のスコアリングシステム「ARKポートフォリオトラッカー」、評価モデル、投資メモを総合的に判断し、基本的な投資ストーリの根拠をモニタリングしています。
ARKは以下の6つの主要指標に基づいて投資先を評価しています
(図:ARK Investmentより)
日本語にするとざっとこのような形式でスコアリングしています。
1.企業、人材、企業文化
重要人材の退職
効果的でない人材採用
法的リスクの脅威
不適切なガバナンス
2.実行力
不十分/減少するR&D支出
不適切な事業運営モデル
不十分な販売・マーケティング実行
3.参入障壁(競争優位性)
新たな破壊的技術の台頭
競争圧力の増加
貿易障壁と補助金
4.製品リーダーシップ
マーケットシェアの喪失
将来のイノベーションに対するビジョンの欠如
不適切なKPIの設定
5.バリュエーション
株式の平均収益率が5年平均で15%を下回る
6.投資テーマのリスク
規制リスク
地政学的リスク
技術導入リスク
環境・社会リスク
多くの企業や投資会社が投資判断を行う際に、論理的かつ再現性のある意思決定ができるよう、スコアリングを活用している場面をよく見かけます。これは、人間は複雑な事象を複雑な事象としてそのまま理解することが難しいため、可視化して整理することで、より理解しやすくするためです。
ちなみに、世界最大級のヘッジファンドであるブリッジウォーター・アソシエーツの創業者、レイ・ダリオ氏の書籍にも、スコアリングされたグラフやチャートが山ほど登場します。彼もまた、国家の経済や軍事などの複雑な事象をスコアリングすることで、経済の理解を深める工夫を行っているようです。
スコア化した図はこんなイメージです。
(図:Ray Dalo氏の国力評価スコアリング、The Great Powers Index: 2024 )
ARKの「オープンリサーチエコシステム」とはどんなものか?
イノベーションをいち早く見極めるための調査システム
ARKは、「透明性」「協力性」「分野横断性」を重視した情報の流れが、独自の投資インサイトを生み出すと考えています。社内外の多様なデータソースを活用し、タイムリーな分析を行っています。
このリサーチプロセスの中心にあるのが、ARKの仮想コラボレーション・プラットフォームです。チームメンバーや外部の有識者「テーマ・デベロッパー」との間で、体系的にインサイトやアイデアを交換し、深い洞察を生み出しています。
ソフトバンクの孫さんも、専門家や業界の最前線にいる人物とのミーティングや議論を重ねながら事業構想を練っており、一人でオフィスにこもることはほとんどないと言われています。
この共通点からもわかるように、各分野のプロフェッショナルと議論を重ねることで、アイデアが醸成され、研ぎ澄まされ、より独自性のある投資インサイトが生まれるという事がわかります。
(図:ARK Investmentより)
破壊的イノベーションの時間軸を見極める
最後に時間軸でどのように捉えているかのグラフがありましたのでさらっと触れておきます。赤のチャートはアーリーアダプターで緑はマーケット全体を表しています。
初期:
短期的な株価の変動は、企業の本質的な価値を正確に示しているとは限らず、ボラティリティを反映しています。
中期:
投資家は、短期的な出来事の影響を過大評価しがちであり、一方で長期的な市場の成長を過小評価する傾向があります。
長期:
企業が将来の成長機会に再投資しているか、また新しい破壊的イノベーター(ディスラプター)が登場する可能性があるかを見極めることが、投資判断において重要です。
(図:ARK Investmentより)
ここまでARKの投資哲学の資料があったのでさらっと見てきましたが、自分で企業の分析などを行う際にも役立ちそうです。
まとめ
他の投資会社がセクターや業界毎のリサーチ・アナリストを配置しているのに対し、ARKはテクノロジー別(AI、ブロックチェーン、ロボティクス、エネルギー貯蔵等)にアナリストを配置し、業界を横断した調査が得意で、14分野のテクノロジー分野の専門家がカバーしている。
一般的な投資会社はテスラを自動車業界に分類されると定義して、調査分析しているが、ARKはテクノロジーの観点から、AI、ロボティクス、エネルギー貯蔵の専門アナリストが複数人で複合的に分析している。
「オープンリサーチエコシステム」という外部の専門家や最先端にいるプロとの議論の中から技術動向を深く理解し投資判断に反映している。
参考:
THE ARK INVESTMENT PROCESS
https://assets.arkinvest.com/media-8e522a83-1b23-4d58-a202-792712f8d2d3/ae99894f-5f98-4e93-ac19-a27119170651/ARK-Invest-Thematic-Investment-Process.pdf
The Great Powers Index: 2024
https://economicprinciples.org/downloads/DalioRay_Power_Index_Appendix.pdf